躍進 vol.44(2024年3月発行)

現役からの便り

静岡高校吹奏楽団 顧問 平林 朋之

 

 第45回定期演奏会の際には、OBOG会の皆様より、多大な御支援をいただきました。まずは、御礼申し上げます。第45回は夏のコンクールで四楽章を演奏した、ボロディンの交響曲第2番全曲に取り組みました。私も同じ曲に四月から三月まで一年間かけて練習するという初めての経験をさせていただきました。交響曲第2番は決して演奏機会の多い曲ではありませんが、それでもクラシックの奥深さというのでしょうか、飽きることも全くなく、最後までこの曲に取り組めることの幸せを感じながらやりきることができました。また、一年間、ボロディンをやってきた三年生は、まだやりたりなかったのか(笑)、文化祭での弦楽合奏部との合同オーケストラでも、ボロディンの「ダッタン人の踊り」を演奏し、まさに青春をボロディンに捧げた代となりました。ボロディンは化学者が本業で、「ボロディン反応(ハンスディーカー反応)」の発見者としても知られています。音楽を愛しながら、本業でも力を発揮するという点では、吹奏楽部の生徒たちのモデルになり得る人なのかもしれません。オルガン奏者の三浦奏惠さんとの初めてのオルガンとの共演もとても印象的でした。前日の会場練習でのバランス調整はとても大変でしたが、パイプオルガンの重厚な音色を背に演奏した経験は生徒たちの宝物となったのではと思います。

 

 コンクールは、A編成で出場し、ドヴォルザークの序曲「謝肉祭」を演奏しました。結果は残念ながら銅賞に終わってしまいましたが、55人が標準のところに37人でチャレンジした価値はあったと思います。今年は、一、二年生に楽器を変えた初心者が多かったのですが、全員が参加することによってレヴェルが格段に上がりました。また、オーケストラ音楽独特の響かせ方や奏法についての理解も進み、定期演奏会につながっていけばと思っています。

 

 今年はコロナの影響がほとんどなくなったということが特徴です。ただ、生徒たちにとってはコロナ以前のことがよくわからなくなってしまったところがあります。そんな意味では仕切り直しの年でもありました。

 

 夏以降は、地域でのお祭りが昨年は1回でしたが、今年は3回に増えました。昨年復活した「安東祭り」に加え、コロナ前にも行っていた「あさばた遊水池フェスタ」が復活し、さらに城北公園で行われた「大岩祭り」にもお招きいただきました。「安東祭り」は体育館の演奏なのですが、あとの二つは生徒たちにとっては〈初めての〉野外コンサートで、率直に言って「あさばた」の方はバランスや音響という点で満足いくものではありませんでした。しかし、その翌日に行った「大岩祭り」では様々なところを改善して、前日とは見違えるほどのできになり、私も感動しました。経験をもとに改善、リカバリーする力はさすがだと思いました。

 

 12月に行われた「7校合同ウインターコンサート」では、音楽を演奏しながら劇をするという試みをしていました。ここでも、会場リハーサルではうまくいかず、リハの時間が足りなくなってしまうほどでした。しかし、リハから本番までの数時間のなかで様々な改善をして、本番では素晴らしいステージにすることができました。

 

 今年度の二年生をみると、様々な経験から学びながら、創意工夫をしてよりよいものをつくることができる力を持っている代だったと思います。

 

 一年生についても同様です。修学旅行から帰ってきた二年生を一年生が演奏会をしてもてなし、お土産をもらうという行事「お帰りなさいコンサート(別称『お土産ありがとうコンサート』)はいつから始まったかわかりませんが、今も続いています。今の二年生が一年生の時も趣向を凝らしたコンサートだったのですが、一年生も事前予告動画あり、生徒AIを使ったポスターありで、とても面白いコンサートをやってくれました。コロナで途切れてしまった伝統もありますが、私などでは予想もできない、新しい世代の生徒たちの力というのも感じました。

 

 唯一今年、残念だったのが、野球応援です。定期戦が雨で中止、夏も一回戦でまさかの敗退となってしまい、正直今の一年生の子たちは野球応援がどのようなものかつかみきれないまま終わってしまいました。来年度は球場で右往左往することになるかと思いますので、どうぞ皆様方には温かく御指導いただきたいと思います。

 

 残すところは第46回定期演奏会のみです。実行委員長の方から詳しく紹介がありますが、こちらは伝統を受け継ぎながら、また新しいチャレンジをしています。静高吹奏楽団定期演奏会初の「幻想交響曲」(意外!)や、ポーランド国際音楽コンクールopus・2021ハープ部門第一位等、国内外で活躍中のハープ奏者浅野華さんをお招きしての初のハープ協奏曲などに取り組みます。どれも難曲ですので、どこまで到達できるかまだまだ不安ではありますが、生徒たちと一緒に全力で練習していますので、どうぞ応援していただければと思います。

 

 最後になりますが、静岡高校では令和6年度より、中学校における部活動の地域移行や、高校においても校外活動に取り組む生徒の増加が見込まれること等をふまえ、部活動への全員加入の原則を廃止し、1~3年の全学年において任意の加入になることをご報告します。来年の一年生はSWIMC69期となります。部活動の任意加入化が吹奏楽部にどれほどの影響があるかはわかりませんが、経験者・未経験者問わず、多くの新入生に、是非吹奏楽部で新しい出会いを見つけてもらいたいと願っています。そして、末永く吹奏楽部が存続していけるよう、OBOGの皆様にも新入生の方へのお声がけ、また吹奏楽部への御支援を賜りますようお願い申しあげます。

 

高校生がヨーロッパの芸術文化に触れる演奏旅行・企画から実施まで

 

静高音楽講師・吹奏楽団アドヴァイザー 榊原 勝

 

 1992年、「静岡市高校生選抜吹奏楽団」60人編成募集して、『スイス・ドイツ・オーストリア演奏旅行(10日間)』を企画・実践した。安全第一で健康面・交通・治安等の説明会を保護者・本人対象に念入りに行い、静岡市教育委員会の後援を受け生徒たちの心身ともに豊かな教育の一環として生きるよう、演奏機会、交流機会を綿密に企画・立案・説明会を行った。新たな企画を立ち上げる為、理解者集めに奔走した。結果、7校60人結団。

 

 賛同したある校長が、円滑運営の為に”顧問”になったうえに、高価な楽器を海外に持ち出す(輸出入審査)のに、税関で一人一人チェックされ五時間近くかかるのを30~40分で済むように手続きしてくれた。正に”教師”である。子どもたちの大きな体験が、実のある経験に変わることを知っていたのだ。静岡中央高校設立準備委員として私と一緒に動いた尊敬に値する人物である。

 

 まずはスイスでの演奏。美しい景色を背景に演奏する会場だが、夜の8時なのに電灯が無くても楽譜が見え、景色を背景に演奏した。白夜の初体験!?

 

 不思議な初めての体験。大きな収穫は、地元の楽団と交流演奏した時、技術的には日本の高校生の方が遥かに高いが、スイスの人達は技術・完成度よりも「楽しい」が優先しているのだ。音楽が温かく心に沁みた。演奏者側も聴衆者側も共に楽しんでいる姿に学んだ。日本はコンクールに命を懸けすぎ、失敗を恐れる心が育つ。音楽は競うより音楽を通して絆が出来る事の方が大事なのかな。など、根本から考えさせられた瞬間であった。この体験が今でも高校生を指導する時、心より感動する音楽、心から感謝する音楽、の指導の根底にあるのかもしれない。【金賞より聴衆の温かい拍手が金の価値】

 

 翌日は観光しながら移動し、石造りの街に囲まれた旧市街の街角に8人掛けの大テーブルが20程ある前のステージで、法被を着て樽の太鼓を叩いて日本の民謡を演奏。観衆の拍手や手拍子に乗せられ、気持ちの良い演奏ができた。コンサートが終わると生徒たちは客席の方に呼ばれ、各々盛り上がっている。ドイツ語喋れないのに!?

 

 さすが高校生ですね。英語、日本語、音楽用語、笑顔とジェスチャーで大騒ぎ。お土産に扇子やお箸を持たせたので、一層盛り上がったのだろう。私も、ウィーンから避暑に来ていたご夫婦に演奏と指揮を気に入られ、一生懸命対話したことを今でも覚えている。近くの美味しいチョコレート屋に連れて行ってくれ、閉まっていたお店を無理矢理開け、お土産を沢山戴いたのも思い出である。【音楽を通じて文化交流ができる、音楽は万国共通の言語】

 

 ドイツでは湖畔のドームにおいて地元の人や観光客の聴衆を前に、響くドームにて演奏できた。ウィーン、ザルツブルグでは演奏以外に、本場のオペラを鑑賞した。開演ギリギリの到着で迷惑をかけたが、ここでも文化を学ぶことになった。オペラハウスの座席は座ったら前の座席に膝が着く位狭い。ルールとして座席番号が中央の人が早めに着席し、徐々に埋めていく。外側の人は、埋まるまで着席せず待っているのだ。休憩時も全員ホワイエに行き飲み物を。日本のようにアルコールを酔うためでなく、幕間の会話を楽しむためにワイン、ジュースを戴く。ワインはコーヒーか水と同じ感覚なのだ。体の大きな人たちが狭い椅子に座り譲りながら皆で芸術を楽しむ豊かな文化を目の当たりにした。【日常生活にOpera文化】

 

 静高吹奏楽団の生徒と音楽を学ぶのもいつまでか分からないが、静高生だから出来る、静高生にしか出来ない音楽を創り上げ、お客様が心から喜んでくださる演奏活動を沢山体験し、自身の心を磨く経験に成長させて欲しい。部員、皆仲良く切磋琢磨し静高吹奏楽団の音楽文化を築いている生徒たちを、私は自慢したい。そして将来、世界の文化・芸術交流の懸け橋になるようなリーダー的な存在になる人が生まれることを、静かに願っている。欲を言うと静高生と世界に出て交流演奏し、視野を広めて欲しい(十代の内に)と、夢見ている。【孫を指導する一人のTUBA吹き】

 

吹奏楽団 団長 八木 勇城

 

 OBOGの皆様、日頃から応援してくださり誠にありがとうございます。現在私たちSWIMC67・68期は、二年生20名、一年生17名の計37名で活動しています。今年度は、感染症による制限がほとんど無くなり、地域のお祭りでの野外演奏やウィンターコンサートの合同演奏など昨年度までは経験できなかった多くの催しに参加させていただくことができました。

 

 昨年度の定期演奏会は多くのお客様にも楽しんでいただけて、私たちとしても大成功と言えるほど満足のいくステージを全員で創り上げることができました。私は小学生のころからずっとバスケットボールに打ち込んでいましたが、高校生になって勇気を振り絞ってこの吹奏楽団に入団しました。だから、この一年は全てが新鮮でワクワクで、人と音を合わせることの喜びを知りました。初心者でなにもわからない私を丁寧に一つずつ教えてくれた先輩たち、ともに歩んでくれた同級生には感謝の思いでいっぱいです。

 

 そんな先輩たちも引退し、新しい一年生17人を迎え、67期68期での一年が始まりました。私に部長が務まるだろうかと大きな不安を抱きながらも頼れる仲間と最高の一年をつくろうと決心しました。

 

 今年度も野球の定期戦が延期となったため、私たちの初のステージは文化祭です。一年生には、楽器の変更を余儀なくされてしまった部員や私と同じように初心者の部員もいます。ですが、皆少ない時間の中でよく練習したおかげで、本番は楽しんで演奏することができました。先輩たちからも良かったと声をかけてもらい、ほっと一安心でした。

 

 夏の野球応援は一回戦で終わってしまいました。唯一、三学年揃って皆で演奏できる貴重な機会なので来年度は甲子園に行けるよう、私たちも全力で応援したいと思います。そして夏のコンクール。少ない時間を捻出して、かなりの難曲に挑みました。県大会出場を目標としていましたが、結果は銅賞。とても悔しい思いをしました。私ももっとできることはなかったのかと、たくさん後悔しましたが、それがこれから始まる定期演奏会への糧ともなりました。

 

 ところで、今年度の目標は「体験する音楽」です。私たちの音楽を通して何か少しでもお客様に「体験」していただきたい、そんな音楽を創りたい、という思いでこの目標としました。私は音楽を全身で受けたときに感じる興奮が、そして音楽を顔を輝かせて聴いている人を見るのが大好きなのです。なにより、私たち自身が自分たちの奏でる音楽を体験したい、そのような願いもあります。

 

 さて、八月には安東夏祭り、そして十月には昨年度はなかった麻機遊水地でのお祭りや大岩町の城北公園でのお祭りで演奏させていただきました。地域の方々に披露する数少ない機会です。安東夏祭りでは、平林先生も演奏に混じり皆で演出係が作ったお面をつけて「スーパーマリオブラザーズ」を演奏し、野外のお祭りではディズニーの被り物をつけて「ディズニーアットザムービー」を演奏しました。野外の演奏でも子供から高齢の方まで多くの方が笑顔で手拍子をしながら聴いてくださいました。コロナ禍ではできなかった野外での演奏、お客様の暖かさになんだか嬉しくなりました。十月の校内演奏、秋祭でも同じ曲を演奏しましたが、アンコールの「マツケンサンバ」では平林先生がマツケンの恰好をしてサプライズ登場。私たちもびっくりです。会場は大盛り上がり。演奏後は、ブラボーの声がいくつも聞こえてきて、最高のステージとなりました。

 

 二年生が修学旅行から帰ってきた後、一年生がおかえりなさいコンサートを開催してくれました。チラシや告知動画まで作ってくれて会場は飾り付けられていました。曲も一年生の部員が編曲したものです。その気合の入りようと演奏の素晴らしさに本当に感動し、かわいい後輩を持ったなと嬉しくなりました。

 

 最後のポップスステージ、12月のウィンターコンサートでは、演出係が最後の仕事ということで本当に素晴らしいステージを作りあげてくれました。愛し合いながらも結ばれなかった姫と騎士が、来世で結ばれるという真実の愛を描いた劇です。役者の一年生たちの気持ちのこもった熱演に私たち自身も圧倒され、演奏中であるのに感動してしまいました。私も初めてソロを吹かせていただき、お客様から大きな拍手をいただけました。本番までバタバタで本当に不安でしたが、最後にふさわしい感動的なステージにすることができ、多くのお客様に楽しんでもらえたので良かったです。今年度から復活した合同演奏では、出演した7校全員がステージに立って2曲演奏しました。他校の演奏を間近で聴けて良い刺激となりましたし、こんなに大人数で吹くことはないので楽しかったです。

 

 アンサンブルコンテストは、フルート4重奏が県大会に出場することができました。私はインフルエンザにかかり出場が叶いませんでしたが、どのパートも良い演奏をした、と誇りを持って言えます。

 

 SWIMC67・68期、残すは合宿、そして3月27日(水)静岡音楽館AOIにて行われる第46回定期演奏会のみです。この2年間は、きっと私の人生の中で最も輝いている二年間です。大好きな仲間たちに囲まれて大好きな音楽に浸れる、私は幸せ者だと思います。その環境を与えてくださる方々、お客様、仲間たち、すべての人への感謝の気持ちを込めて演奏します。私たちの一年を「体験」していただけるよう全力を尽くしますのでぜひお越しください。私八木勇城を筆頭にお待ちしております。最後となりましたが、これからも邁進してまいりますのでSWIMCをどうかよろしくお願い致します。

 

定演長 植松 禾ノ晴

 

 第46回定期演奏会では、 フランス出身の作曲家、エクトル・ベルリオーズによる大傑作「ある芸術家の生涯の出来事、5部の幻想的交響曲」を中心に、中央ヨーロッパ諸国の作曲家たちの曲を中心に演奏します。

 

 まず1曲目に演奏するのは、建部知弘作曲、藤田玄播補作の「コンサート・マーチ『テイク・オフ』」です。この曲は、1986年の第34回全日本吹奏楽コンクールの課題曲で、マーチでありながらも壮大でゆったりとした序奏部や、中盤の勇猛なホルンのオブリガードが非常に特徴的です。その人気故に、2006年には作曲家本人によるリメイク版「テイク・オフII」も発表されています。

 

 2曲目には、ベドルジハ・スメタナ作曲の歌劇『売られた花嫁』よりポルカを演奏します。スメタナは、今年で生誕二百周年を迎えたチェコ出身の作曲家であり、3、4曲目に演奏する曲の作曲家である、アントニン・ドヴォルザークの師匠でもあります。ポルカとは、2拍子の軽快なリズムが印象的なチェコの民族舞踊のことを指し、この歌劇中では、結婚式に浮かれる村人たちが踊るダンスのバックミュージックとして演奏されます。その快活さ、陽気さからは、チェコの民衆オペラの温かい雰囲気が感じられるかと思います。

 

 3曲目は、先程紹介したアントニン・ドヴォルザーク作曲の「スラブ舞曲集」より第1番、第10番です。故郷を愛し、生涯その楽曲に民族的音楽を取り入れてきたドヴォルザークが、故郷ボヘミアの民族音楽を題材に手掛けたこの舞曲集は、彼を一躍有名にした最初の曲でした。明るく溌剌とした印象を受ける1番と、しっとりとしてどこか哀愁を感じさせる10番は、曲調こそ大きく異なりますが、その根底にはボヘミアの豊かで美しい一望無垠の自然が感じられます。

 

 4曲目には、同じくアントニン・ドヴォルザーク作曲の「交響曲第8番」より第4楽章を演奏します。「イギリス」の副題と共に広く知られるこの曲は、イギリスのノヴェロ社で出版され、そこで多くの民衆を魅了し人気を博しましたが、音楽的に見ていくと極めてチェコ的であると言われています。こちらもスラブ舞曲同様ボヘミアの雄大な自然を彷彿とさせる伸びやかで且つ力強い主題が、メロディ作りの天才と評されたドヴォルザークにより様々に展開されていきます。

 

 5曲目は、ガブリエル・ピエルネ作曲「ハープと管弦楽のための小協奏曲」です。フランスに生まれた彼は当時パリ音楽院にて一年先輩であったクロード・ドビュッシーと親しくしていたようで、独創的な天才肌のドビュッシーとは対照的に、ピエルネは知識や努力、経験に裏付けられた秀才と言われたそうです。そんな彼の作曲家としての才能は、ローマ大賞も受賞するほどのものでしたが、後年彼は指揮者としての才能を大きく開花させました。曲の理解に秀でていた彼はドビュッシーを始め、ラヴェル、ストラヴィンスキーなど多くの人気作曲家の曲の初演を行いました。今回は、ハーピストの浅野華様、編曲をお願いした高羽正則様のお陰で、吹奏楽でハープとの共演が実現します。

 

 そして最後に演奏しますのが、エクトル・ベルリオーズ作曲の「ある芸術家の生涯の出来事、五部の幻想的交響曲」です。ベートーヴェンの死後僅か三年に完成したこの交響曲は、現代から見ても革新的な異色の作品であり、当時は音楽界に非常に大きな衝撃が走ったとされています。交響曲には珍しく5楽章編成となている幻想交響曲は、その楽章の使い方が当時のスタンダードからは逸脱しており、それぞれが「ある芸術家」とされる本作品の主人公の人生の一場面を表しています。ベルリオーズ自身が曲の発表に伴って記したプログラムには、この作品は音楽的要素によるオペラである、というような内容が見られ、また各楽章がどのような場面を演じているかの解説も書かれています。突然狂ったように一人の女性に恋をして、その熱狂的で狂気じみた愛情を膨らませる第1楽章、舞踏会にてその女性の姿を見つける夢を見る第2楽章、羊飼いの吹く牧歌を聞き、彼女へのその愛情が醜い嫉妬、殺意へと変化していく第3楽章、彼女を殺して死刑を宣告され、断頭台に向かう第4楽章、そして死後の世界で恐ろしい化け物たちに囲まれながら、変わり果てた姿をした彼女に再会する第5楽章。言葉の力を借りずとも、ここまで鮮明に物語や映像を想起させることができる音楽は他に無いでしょう。

 

 どれもこれからまた長い時間をかけて練習を重ねていく曲です。演奏会では我々SWIMC67・68期の集大成となるサウンドを、是非ともお楽しみください。